産業医の意見に従わなかった企業の判例から学ぶポイント
〜「産業医の勧告=絶対」ではない。でも“無視の仕方”で会社が危なくなる 〜

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はじめに

産業医面談で「就業制限が必要」「残業を止めるべき」「配置転換が必要」と言われたのに、 会社が実質的に放置してしまう――。 現場ではよくある構図ですが、裁判になると争点は単純に 「産業医の意見に従ったか」ではなく、「安全配慮義務として合理的な対応をしたか」 になります。
結論:産業医の意見は“強制力”よりも「リスク評価の基準」
- 産業医は事業者に対して勧告ができ、事業者はそれを尊重すべきとされています。
- ただし、裁判例では「産業医の助言を受けなかった/従わなかった」ことそれ自体を、直ちに独立した安全配慮義務違反としない判断もあります。
- 一方で、事故・自殺・疾病悪化が起きたとき、産業医意見をどう扱ったかが会社の合理性を左右しやすいです。
押さえるべき法的な枠組み

1)「産業医の勧告」と会社の位置づけ
産業医は、労働者の健康確保のため必要があると認めるとき、事業者に勧告できます。 事業者は、その勧告を受けたとき、これを尊重しなければならないとされています。
とはいえ、会社の措置は職務・配置・人員体制など経営判断も絡みます。 裁判では「勧告に100%従ったか」ではなく、当時の情報から見て、会社が合理的に動いたかが問われます。
2)裁判の主戦場は「安全配慮義務」
会社は、労働者の生命・身体・健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負い、 メンタル不調・過重労働・基礎疾患の増悪などの場面で争点になりやすいです。
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産業医の意見に「従わなかった/活用しなかった」ことが争点になった裁判例

裁判例①:産業医の助言を受けなかったこと“だけ”では安全配慮義務違反にならない
裁判例の整理の中で、使用者が産業医の指導・助言を受けなかったこと それ自体を、独立した安全配慮義務違反と解することはできないとされた例が紹介されています。
代表例として、出向者のうつ病発症・自殺をめぐり安全配慮義務違反が争われた 四国化工機ほか1社事件(高松高裁 平成27年10月30日)が挙げられます。 この事件では結論として会社側の責任は否定されました(労働者側敗訴)。
ポイントは、「産業医の意見を形式的に取り入れたか」より、 当時の状況で会社が危険を予見できたか/合理的な措置を取ったかの枠組みで判断される、という点です。
裁判例②:休職中の産業医面談“未実施”が直ちに安全配慮義務違反とはされない
病気休職中に「月1回の産業医面談が実施されなかった」ことが争点になった 多摩市事件(東京地裁 令和2年10月8日)では、 産業医面談を実施しなかったことが安全配慮義務違反に当たらないとされた整理が紹介されています。
ここから言えるのは、裁判所は「産業医面談をやった/やらない」という形式面だけでなく、 個別の状況(休職の経緯、他のフォローの有無、症状の把握可能性など)から 具体的な義務の内容を決めるということです。
裁判例③:医師の判断・意見を軽視した会社対応が「危ない運用」として整理されることがある
厚労省の資料(メンタルヘルスと判例の判断基準の整理)では、 「医師(主治医・産業医)の判断、意見の無視」などが 実務上の問題点として言及されています。
つまり裁判の世界では、産業医意見の扱いは 会社の判断の合理性・手続の相当性を評価する材料になり得ます。
「従わない」ことが直ちに違法でなくても、会社が負けやすくなる典型パターン

- リスク(長時間労働・希死念慮・基礎疾患など)が見えていたのに放置
→ 予見可能性が高いほど、安全配慮義務違反に寄ります。 - 産業医意見を“否定する”のに代替根拠がない
→ 会社判断の裏付け(別医の評価、職務分析、具体的な業務軽減案など)が無いと弱いです。 - 記録がない(衛生委員会・面談記録・決裁プロセス)
→ 裁判では「やったつもり」は通りません。記録の有無は決定的です。 - 結論ありき(退職誘導・不利益取扱い)で産業医を使う
→ 動機が透けると、手続の公正さが疑われます。
企業向け:裁判で負けにくい「産業医意見の扱い方」テンプレ

- ① 受領:産業医意見(勧告/所見)を文書化して受領日を固定
- ② 検討:人事・上長・衛生管理者で「実行可能な代替案」も含め検討
- ③ 決定:就業制限/業務軽減/配置転換/在宅等の具体策を決裁
- ④ 記録:衛生委員会での報告・議事録、本人説明、同意の範囲を保存
- ⑤ フォロー:期限を切って再評価(2週間〜1か月など)
「従う/従わない」ではなく、医学的リスクをどう評価して、どう代替措置まで含めて意思決定したかが重要です。
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まとめ

産業医の意見に従わなかったからといって、直ちに企業が違法になるわけではありません。 ただし、判例の整理を見ると、 産業医の助言・勧告は「リスクを認識していた証拠」になり得るため、 無根拠な無視や記録の欠如は、のちの紛争時に会社を不利にします。
産業医の意見は「命令」ではなく、企業が安全配慮義務を果たすための重要な材料。 だからこそ、扱い方(手続・代替案・記録)が勝負です。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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