退職直前にメンタル不調を訴えられた場合の整理

退職予定の社員から、直前になって「体調が悪い」「うつ状態で働けない」といった申出があるケースは珍しくありません。この場面で現場が迷いやすいのは、退職手続きを進めるべきか、それとも健康配慮を優先すべきかという点です。
結論から言うと、両者は対立するものではなく、手続き(雇用契約の終了)と健康配慮(安全配慮義務)を分けて整理することが重要です。
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まず押さえる前提

退職直前であっても、在籍中である以上、会社には安全配慮義務があります。一方で、本人の退職意思が明確であれば、退職手続きそのものが直ちに無効になるわけではありません。
つまりこの場面では、
- 退職の意思表示の有効性
- 現在の健康状態と就業可否
を別々の軸で確認する必要があります。
なぜ混ぜると危険か

1. 退職を止めるかどうかの議論に偏る
「体調が悪いなら退職させていいのか?」という論点だけに寄ると、本来必要な健康配慮が抜け落ちます。
2. 仮病扱い・駆け込み扱いになりやすい
タイミングだけで評価すると、「都合がいい」「後出し」といった判断になり、対応が荒くなります。
3. 記録が歪む
退職の話と健康の話が混ざると、面談記録が曖昧になり、後から見たときに説明がつかなくなります。
実務での整理フロー

STEP1 まず相談として受ける
初動では否定も評価もしません。
「現在の体調についてのご申告として受け止めます。まずは状況を整理させてください。」
退職の話とは切り離して、健康面の相談として受理します。
STEP2 “退職軸”と“健康軸”を分けて確認
退職軸
- 退職意思は現在も変わらないか
- いつ意思表示したか
- 撤回の意向があるか
健康軸
- いつから体調不良があるか
- 受診状況・診断書の有無
- 就業継続の可否
この2つを同じ会話で混ぜないことがポイントです。
STEP3 就業可否の判断を先に整理
在籍中である以上、まずは就業可能かを見ます。必要に応じて、
- 休業(欠勤・休職)
- 就業制限
- 産業医面談
などを検討します。
STEP4 退職手続きは“事実として”進める
退職意思が維持されている場合、手続き自体は進めます。ただし、健康状態によっては、
- 最終出社の調整
- 引継ぎ方法の変更
- 出社免除の検討
など、実務上の配慮を行います。
STEP5 診断書が出た場合の扱い
診断書が提出された場合は、退職の有効性とは別に、在籍期間中の就業配慮として扱います。
例えば、退職日までの期間について、就業不可とされている場合は、出社させる前提ではなく、休業扱いを含めて整理します。
STEP6 記録を分けて残す
ここは非常に重要です。
- 退職に関するやり取り
- 健康状態に関する申告・対応
を別々に記録します。混ぜると後から説明が難しくなります。
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よくある失敗

1. 「退職するなら関係ない」と扱う
在籍中である以上、健康配慮は必要です。
2. すぐに仮病を疑う
タイミングだけで判断すると、対応が不適切になりやすいです。
3. 退職手続きを止める
健康問題があるからといって、退職意思の扱いを曖昧にすると混乱します。
4. 上司だけで処理する
人事・産業医を巻き込まずに進めると、判断が偏りやすくなります。
初動テンプレ
「現在の体調についてのご申告として受け止めます。退職に関するお話とは切り分けて、まず健康状態と就業可否を確認させてください。その上で、人事および産業医とも連携しながら必要な配慮を検討します。退職に関する手続きについては、別途整理してご説明します。」
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まとめ

退職直前にメンタル不調を訴えられた場合に重要なのは、退職と健康を混ぜないことです。
退職は手続きの問題、メンタル不調は安全配慮の問題。この2つを分けて整理することで、不要な対立や混乱を防ぐことができます。
実務で強いのは、状況に振り回される会社ではなく、論点を分解して扱える会社です。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
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