出勤は可能?うつ病と働き続ける基準は?

現役精神科医・産業医の立場から、当該社員への対応について、人事・管理職・経営者向けに実務的に解説します。
うつ病とは何か|DSM-5・ICD-10に準拠した医学的定義
うつ病(Major Depressive Disorder:MDD)は気分・意欲・思考・身体機能が持続的に低下する精神疾患であり、単なる「気分が落ち込む」「疲れている」といった状態とは区別されます。うつ病の原因ははっきりとした原因はまだわかっていないが、一つではなく、環境要因等によるストレス、脳の生理物質、本人の性格や思考パターン、ホルモンバランスの変化、器質的異常など複合的に要因が重なり発症すると考えられます。普段の臨床現場においても、うつ病の原因が不明なケースも多いと感じます。診断ではDSM-5やICD10といった診断基準に基づき診断します。
DSM-5の診断基準(要点)
DSM−5では、以下の症状のうち5つ以上が同時に2週間以上続き、社会生活・仕事に支障をきたす場面にうつ病と診断されます。
・抑うつ気分
・興味、喜びの喪失
・食欲の増減
・不眠または過眠
・疲労感の増加
・罪責感、無価値感
・思考力、集中力の低下
・精神運動の制止または焦燥
・死についての反復思考
ICD-10におけるうつ病の分類
ICD−10では、以下により重症度を分類します。
・軽症うつ病(F32.0)
・中等症うつ病(F32.1)
・重症うつ病(F32.2)
特に重症では、「仕事以前に生活の維持が困難」であり、出勤は現実的ではありません。また、重症うつ病の場合は必要に応じて入院した上で、薬剤調整を行い、改善も見られない場合は電気けいれん療法を行うケースも多々あります。自身の経験では重症うつに対して薬剤反応性が悪い場合は電気けいれん療法を5〜6回実施したあたりから大幅に疎通性が良好になり、食事摂取良好となるなど改善が見られる場合が多いです。
うつ病と仕事の関係|働き続けることは可能なのか?

結論から言うと、うつ病=必ず休職ではありません。しかし、状態によっては休職が治療上の最善になることもあります。
産業医として数多くの事例を見る中で感じるのは、
「どの症状があると働けるか」ではなく
「働くことで悪化しないか」が判断ポイントであるということです。
出勤が「可能」な場合の基準(軽症〜安定期)
1.出勤前の朝の準備が自力でできる
・着替え、食事、最低限の家事が可能
→仕事を行うための生活リズムが保たれているかが重要と考えます。
2.仕事の基本動作が保てる
・業務内容を理解できる
・指示を聞いて動ける
・大きなミスが顕著でない
※集中力の軽度低下が多少あることは問題ありません。
3.出勤によって明らかに症状が悪化しない
産業医面談では「仕事の負荷で悪化するかどうか」をよく確認します。
・出勤後に強い倦怠感
・職場に行くと涙が出る
・帰宅後に動けなくなる
これらが「明らかにない」と判断できるなら勤務継続は可能であると考えます。
出勤が「困難」な場合の基準(中等症〜重症)
以下のいずれかがある場合、休職が治療上妥当と判断されますが、本人が取り繕い仕事を継続、復職したいと述べるケースも多々あり、休職の判断は主治医の意見もふまえるなど慎重に行う必要があると考えます。筆者の経験でもこういったケースが散見されます。休職を命じることはすなわち給料がなくなる、減額されることにつながる場面もあり、家族背景などもふまえて総合的に判断が求められると普段の面談を通しても感じます。
1.朝起きられず生活リズムが崩壊
家から出る準備が整えられない場合などが挙げられます。仕事に行く以前に基本的な日常生活を送れるようにすることが大切と考えます。朝起きれない原因が不眠からくるものであれば、心療内科で睡眠薬の調整などを行なってもらう必要があると思います.
2.食事量の著しい低下・体重低下
身体機能が低下しており、著しい食事摂取低下や体重の大幅な低下を認める場合は出勤は困難であると思います。
3.思考力・集中力の著明な低下
・書類が読めない
・業務の判断ができない
・以前は見られていなかったようなミスを連発する。
といったケースはうつ病の症状の特徴である思考制止が疑われ、重症化の典型パターンであると思われます。
4.自責感・希死念慮が強い
「消えたい」、「楽になりたい」と思う状態は危険信号であるといえます.特に希死念慮を伴ったうつ状態では、自殺リスクが非常に高いため早期の対応が求められると考えます。私の経験でも希死念慮を伴ったうつ病の社員がいて、その方の対応をしたケースがあります。もし見かけた場合は、各都道府県にある精神科ダイヤル(例えば東京都ならひまわり(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/iryo_kinou/zenkokutouitsu))に対応方法を相談することが重要と思います。必要時に最寄りの医療機関を教えてくれるかと思います。
5.出勤すると症状が明らかに悪化する
・職場で動悸、涙、パニック
・帰宅後に動けなくなる
・休日も回復しない
普段の面談経験では中等症以上では休職を勧めることが多いです。
産業医が勤務可否を判断する際に重視するポイント

①業務負荷とのマッチング
「今の症状×今の業務」が成り立つか。
例えば、
・会議中心の仕事→集中力低下は致命的
・同じ決められた仕事を淡々とこなす→継続できであるなど現状の状態と本人の仕事内容をふまえて判断することが重要です。必要であれば部署移動等も行うケースもありました。
②労働時間の調整が可能か
・時短勤務
・在宅勤務
・残業ゼロ
これらが導入できる職場は回復率が高い傾向にあると思います。
③職場の理解度・サポート体制
管理職の対応で治りやすさが劇的に変わると感じます。周囲の方のサポート体制が鍵になる場面も往々にしてあります。
うつ病で働き続けるメリット・デメリット
メリット
・生活リズムが保ちやすい
・社会的繋がりの維持
・経済的不安が少ない
デメリット
・無理をすると悪化リスクが高い
・治療の遅れ
・休職期間がかえって長くなる
では、どのタイミングで休職すべきか?(産業医の視点)

以下に1つでも該当すれば、休職を強く推奨します。
・仕事の能率が半分以下になっている。
・朝起きられず遅刻・欠勤が増える
・業務量に対する強い負担感
・主治医から「今は仕事ではなく治療が優先」と言われている
・職場で涙、動悸、過呼吸が起きる
・希死念慮がある
特に希死念慮を伴ううつ状態の場合は即休職が必要であると判断します。通院していない場合は、緊急で医療機関受診が必要です。
産業医及び精神科医としての経験をふまえて
今まで多くのうつ病の患者の治療を入院、外来を含め行なってきましたが、うつ病の原因ははっきりしないケースも多い印象があります。そのため、治療に時間を要する場合もあります。例えば「がん」などの身体的疾患に関しては周囲の理解が得られるケースが多いですが、「うつ病」は心の疾患であり目に見えず周囲からは怠けているのではいかと思われることも多々あります。うつ病に関する理解がより深まれば働きやすい環境が整えられるのではないかと思う場面もあります。うつ病は決して怠けではなく、病気です。また、産業医面談ではうつ病で休職中の復職面談を行うこともありますが、その際は本人のストレスがかかりにくい環境は何かを一緒に考え、会社側に求めること等に関しても丁寧に聞くことが大切と考えます。復職後にも面談を行い、困ったことがないかなど定期的な声掛けも有効になると思います。メンタル産業医センターでは面談の依頼等も受け付けれておりますので、お気軽にご相談ください。
まとめ|働き続けるべきか、休むべきかの判断基準
✔ 働けるライン
- 生活リズムが保てる
- 思考がある程度クリア
- 出勤しても悪化しない
✔ 休むべきライン
- 生活に支障がある
- 集中困難で仕事が回らない
- 出勤で明らかに悪化する
- 強い不安・希死念慮
うつ病は「気合い」では治りません。
仕事の調整は治療の一部であり、
無理をせず適切なタイミングで休むことが、結果的に最短の社会復帰につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
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