メンタル不調社員の「業務上のミス」が増えたとき、会社はどう記録すべきか

メンタル不調が疑われる社員で「業務上のミス」が増えると、現場は焦ります。 ただし、この局面で会社がやりがちな失敗は“評価のための記録”を先に作ってしまうことです。 そうすると、本人は「追い込み」「ハラスメント」と受け取りやすくなり、相談停止→悪化→休職→紛争のルートに入りやすくなります。
一方、適切な記録は会社のためだけではなく、本人のためでもあります。 安全配慮(就業判断・業務調整・再発予防)に必要な材料として整理できれば、産業医意見も具体化し、現場の運用もブレません。 本記事では、人事・労務担当者向けに「ミスが増えたときの記録」を事実ベースで作る方法をまとめます。
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結論:記録は「いつ・何が・どんな影響」を短く、事実だけで残す

記録の目的は「処分」ではなく、就業上の安全配慮と再発防止です。 だからこそ、次の3点に絞ります。
- いつ:日時・頻度・発生パターン(例:月曜午前に集中)
- どんなミス:具体行動(例:誤送信、確認漏れ、入力誤り)
- 影響:顧客影響・品質影響・安全影響・再作業時間
よくある失敗:記録が“感情”と“人格評価”になってしまう

失敗1:推測や断定を書いてしまう
- ×「怠けている」「やる気がない」「甘え」
- ×「メンタルだから仕方ない」
- ○「期限直前の確認漏れが3回続いた(○/○、○/○、○/○)」
失敗2:叱責のログになってしまう
「注意した」「指導した」だけが残ると、後からパワハラの争点になりやすいです。 残すべきは叱責ではなく、業務条件の調整と支援の試行です。
失敗3:基準が曖昧で、比較可能性がない
「最近ミスが多い」だけでは運用に落ちません。できる範囲で数・頻度・影響を残します。 それだけで産業医も人事も判断しやすくなります。
会社が残すべき記録は「安全配慮の材料」:6つの観点

1. ミスの事実(いつ・何が・影響)
最小単位は「日時/業務/誤り内容/検出経路/影響」です。 文章は短く、箇条書きで十分です。
2. 発生状況(前後の条件)
- 繁忙、残業、突発対応、締切集中、会議連続など
- 上司変更、配置変更、担当変更、顧客対応増など
“本人の弱さ”ではなく、条件として残すのがポイントです。
3. リスク区分(安全・品質・情報・対人)
- 安全:運転、高所、危険作業、夜勤の判断
- 品質:納期遅延、再作業、誤出荷
- 情報:誤送信、権限ミス、持ち出し
- 対人:顧客クレーム、社内トラブル
4. 会社側の対応(“調整”の履歴)
ここが最重要です。記録があると「会社は安全配慮を検討し、段階的に調整した」と説明できます。
- 業務棚卸し(A/B/C)を行ったか
- 締切の分散、レビュー追加、会議回数制限など条件調整をしたか
- 本人への確認(体調・睡眠・負荷)をどう行ったか
- 産業医・人事への連携をいつ行ったか
5. 本人の申告(言葉をそのまま短く)
長文メモは不要です。引用で短く残します。
- 「睡眠が3〜4時間で続いている」
- 「朝の集中が保てない」
- 「締切が重なると頭が真っ白になる」
6. 次回見直し日(期限付き運用)
「調整して終わり」だと現場が荒れます。2〜4週後の見直しを先に置いて、運用に落とします。
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記録テンプレ(そのまま使える)

① ミス記録(1件フォーマット)
- 日時:2026/03/xx 10:30
- 業務:請求書作成(A社)
- 内容:金額の入力誤り(◯◯→◯◯)。確認工程を飛ばした
- 検出:上司レビューで発見
- 影響:再作業30分、顧客送付前に修正(外部影響なし)
- 前後状況:当日午前に会議2本+締切3件が集中
② 週次まとめ(運用フォーマット)
- 期間:3/1〜3/7
- 件数:入力誤り2、誤送信0、確認漏れ1
- 影響:再作業合計90分、外部影響なし
- 傾向:締切前日・午前帯に集中
- 実施した調整:レビュー工程追加、会議を午前から午後へ移動
- 本人申告:「睡眠が浅い」「朝が特にしんどい」
- 次回見直し:3/21(産業医コメント反映)
産業医に渡すときのコツ:事実+条件+選択肢

産業医に「最近ミスが増えて…」だけだと意見が抽象的になりがちです。 以下をセットで渡すと、就業措置に落ちやすくなります。
- ミスの事実(件数・種類・影響)
- 発生条件(繁忙、突発、対人、会議連続など)
- 安全配慮が必要な業務の有無(運転・危険作業・夜勤)
- 会社側で既に試した調整(レビュー、締切分散など)
Q &A

Q1. “評価”の記録と“安全配慮”の記録は分けるべき?
可能なら分けるのが安全です。 不調兆候がある局面では、まず安全配慮(就業判断)目的の記録を中心に作り、 それでも改善せず評価に関わる場合は、別の枠組み(評価制度の手順)で扱う方が揉めにくいです。
Q2. 本人が「大丈夫」と言っている場合も記録していい?
はい。記録の中心は病名ではなく業務上の事実と影響です。 「大丈夫」という発言は短く引用で残しつつ、勤怠・ミス・影響の事実を淡々と記録します。
Q3. 記録は誰が作るのが良い?
現場(管理職)が一次情報を持っていますが、属人化しやすいので、 人事がフォーマットを統一し、必要に応じて産業医コメントに繋ぐ運用が安定します。
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まとめ|“事実の短文”が、会社と本人の両方を守る

ミスが増えたときの記録は、叱責ログでも人格評価でもなく、安全配慮の材料です。 「いつ・何が・影響」を短く残し、発生条件と会社側の調整履歴、見直し日までセットにすると、 産業医意見が具体化し、現場も荒れにくくなります。
迷ったら、まずは事実だけを積み上げてください。 それが最短でトラブルを減らし、再発防止につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
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