メンタル不調による労災|企業が知っておきたい精神障害の労災と職場対応

社員がうつ病などのメンタル不調を発症した場合、「これは労災になるのか」と会社から相談を受けることがあります。精神障害についても、業務による強い心理的負荷など一定の要件を満たした場合には、労災として認定される可能性があります。ただし、メンタル不調が発生したからといって、直ちに労災になるわけではありません。また、産業医が労災認定そのものを決定するわけでもありません。本記事では、メンタル不調による労災について、企業が押さえておきたい基本的な考え方と実務上の対応を解説します。
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メンタル不調も労災になる可能性がある

労災というと、仕事中の転倒や機械によるけがなどをイメージしやすいですが、精神障害についても業務との関係が認められれば労災保険の対象となる可能性があります。
実際の認定では、対象となる精神障害を発病しているか、発病前の業務による心理的負荷などを踏まえて判断されます。
診断されたことだけで労災になるわけではない
うつ病や適応障害などと診断されたことと、労災として認定されることは別の問題です。
精神障害には仕事以外の要因も関係することがあるため、診断名だけではなく、発病までの経過や具体的な出来事などを踏まえて判断されます。
長時間労働は重要な確認事項になる

メンタル不調が生じた社員では、発症前の勤務時間を確認することが重要です。特に長時間労働が続いていた場合には、客観的な勤怠記録を整理しておく必要があります。
タイムカードだけでなく、実際の勤務状況との間に大きな差がないかも確認します。
ハラスメントや対人関係も確認されることがある
職場でのパワーハラスメントなどがメンタル不調の背景として問題になる場合もあります。
社員から申告があった場合には、本人の話だけで直ちに事実認定するのではなく、会社として必要な調査を行い、メールや面談記録などの客観的な情報も含めて整理することが重要です。
配置転換や仕事内容の変化が影響する場合もある

異動、昇進、仕事内容の大幅な変更などの後にメンタル不調を発症する社員もいます。こうした変化があった場合には、その時期や具体的な負担を確認します。
単に「異動があった」という事実だけでなく、業務量や責任がどの程度変化したのかを見ることが大切です。
会社は記録を客観的に残しておく
メンタル不調が長期化してから過去の勤務状況を確認しようとしても、正確な情報が残っていないことがあります。
勤怠、残業時間、配置転換、業務内容、会社との面談などについて、通常から適切に記録しておくことは健康管理だけでなく、後から経過を確認する際にも役立ちます。
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労災申請と治療・就業対応は分けて考える
労災に該当するかどうかについて結論が出るまで時間を要する場合があります。しかし、その間も本人の治療や会社としての就業対応は必要です。
労災認定の結果を待ってから健康管理を始めるのではなく、現在の状態に応じて休養、受診、休職などを検討します。
産業医が労災認定を判断するわけではない

産業医面談で本人から「これは労災ですか」と質問されることがありますが、産業医が労災認定の可否を最終決定する立場ではありません。
産業医としては、現在の健康状態や仕事への影響を確認し、必要な受診や休養、就業上の配慮について会社へ意見を述べることが中心になります。
労災を疑う社員への対応で対立を深めない
本人が「会社が原因で病気になった」と訴えている場合、会社側がその場で強く否定すると、本人との対立がさらに大きくなることがあります。
健康上の対応と事実関係の確認を分け、必要な手続きについては人事・労務担当者などと整理して対応することが重要です。
同じ部署で不調者が続く場合は職場環境も確認する

一人のメンタル不調だけで、会社に問題があるとは判断できません。一方、特定の部署で休職者や不調者が続いている場合には、残業時間、人員配置、業務量、管理職の負担などを確認する意味があります。
個別対応だけで終わらせず、再発防止の観点から職場全体を見ることも必要です。
労災になってから対策するのでは遅い
企業のメンタルヘルス対策で重要なのは、労災認定を避けること自体ではなく、社員が健康を損なうほどの負担を早い段階で把握することです。
長時間労働の把握、相談窓口、産業医面談などを日頃から機能させることで、状態が深刻になる前に対応できる可能性があります。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで産業医としてメンタル不調者と面談していると、本人から「仕事が原因だと思う」「労災になるのではないか」と相談されることがあります。その際には、その場で労災か否かを断定するのではなく、発症までの経過、勤務時間、仕事内容、人間関係などを整理しながら、まず現在の健康状態に必要な対応を考えます。会社側についても、本人の主張をすぐに肯定・否定するのではなく、勤怠や業務上の出来事を客観的に確認することが重要です。労災の問題と、本人の治療・就業上の対応を混同しないことが実務では特に大切だと考えています。
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まとめ

メンタル不調についても、業務との関係が認められれば労災となる可能性があります。ただし、診断名だけで判断されるものではなく、発病までの経過や業務による心理的負荷などを踏まえて検討されます。企業としては、勤怠や業務状況を適切に記録するとともに、労災認定の問題とは別に、本人の治療や休養、就業上の対応を進めることが重要です。また、不調者が続く職場では、長時間労働や人員配置など組織側の状況も振り返る必要があります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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