メンタル対策のROI|企業はメンタルヘルス対策の費用対効果をどう考えるか

企業がメンタルヘルス対策へ費用をかける際、「実際にどの程度のリターンがあるのか」と考えるのは自然なことです。ROI(Return on Investment)は、投資した費用に対してどの程度の効果が得られたかを考える指標です。ただし、メンタル対策では売上のように効果を単純な金額へ置き換えることが難しく、ROIを一つの数字だけで評価することには限界があります。本記事では、メンタル対策のROIを企業がどのように考えればよいのか、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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メンタル対策にもROIという考え方は使える

産業医、外部相談窓口、管理職研修、ストレスチェックなどには費用がかかります。一方、メンタル不調が長期化すれば、休職や離職、生産性低下など企業側にもさまざまな負担が発生します。あ
そのため、対策費だけを見るのではなく、「対策しなかった場合に生じる可能性のある損失」と合わせて考えることが重要です。
ROIを単純な計算式だけで評価するのは難しい

一般的な投資では、投資額と利益を比較することでROIを計算できます。しかし、メンタル対策によって「休職を何件防げたか」を正確に判断することは簡単ではありません。
対策を行わなくても不調にならなかった可能性もあるため、効果を過度に数字へ置き換えないことが重要です。
休職によるコストを考える
社員が休職すると、本人が担当していた仕事を同僚や管理職が引き継ぐことがあります。欠員が長期化すれば、周囲の残業増加や業務の遅れにつながることもあります。
休職者本人だけではなく、周囲へ発生する負担まで含めて考える必要があります。
離職すると採用・教育コストも発生する

メンタル不調をきっかけに退職した場合、新しい社員を採用するための費用や時間が必要になります。
さらに、後任者が仕事を覚えるまでには一定の教育期間が必要です。専門性の高い社員が離職した場合には、ノウハウの喪失も企業側の損失になります。
プレゼンティーズムも重要な視点になる
メンタル不調の影響は休職だけではありません。出勤していても集中力や判断力が低下し、以前より仕事に時間がかかる場合があります。
こうしたプレゼンティーズムは数字として把握しにくい一方、企業の生産性を考えるうえでは無視できない要素です。
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早期相談には経済的な意味もある
比較的軽い段階で相談につながれば、受診と並行して残業や業務量を一時的に調整しながら勤務を継続できる場合があります。
すべての休職を防げるわけではありませんが、状態が大きく悪化する前に選択肢を増やすという意味で、早期相談の仕組みには価値があります。
産業医のROIを面談件数だけで判断しない

産業医の利用価値を「年間何人面談したか」だけで評価すると、実際の効果を捉えにくくなります。
管理職や人事が判断に迷った段階で相談できること、休職・復職対応を整理できること、就業配慮を具体化できることなども産業医を活用する意味の一つです。
高額な施策が高いROIを生むとは限らない
多くのサービスを導入しても、社員が利用していなければ十分な効果は得られません。
相談先を明確にする、長時間労働者を把握する、休職・復職の流れを決めるなど、比較的低コストの対策が大きな意味を持つ会社もあります。
自社の課題に合わせて投資する

休職者が多い会社と、離職が多い会社では必要な対策が異なります。また、管理職が対応を抱え込んでいる会社では、相談体制の整備を優先した方がよい場合があります。
流行している施策を一律に導入するのではなく、自社で実際に発生している問題から優先順位を決めることが重要です。
ROIを見るための指標を複数持つ
メンタル対策の効果を見る場合には、休職者数だけではなく、長期休職、再休職、離職、長時間労働、産業医への相談状況などを組み合わせて確認すると実態を捉えやすくなります。
単年度だけで結論を出さず、一定期間の変化を見ることも重要です。
ROIを追求しすぎないことも重要

社員の健康管理には、金額だけでは評価できない部分があります。また、ROIを高めることを目的として、休職が必要な社員を無理に勤務させることは本末転倒です。
健康上必要な対応を前提としたうえで、結果として休職の長期化や離職、生産性低下を減らせるかという視点で考える方が現実的です。
メンタル対策は組織の安定性への投資でもある
適切なメンタル対策は、不調者本人だけでなく、その仕事を引き継ぐ同僚や管理職の負担を軽減することにもつながります。
人材の定着や安定した組織運営まで含めて考えると、メンタル対策は単なる福利厚生ではなく、経営上のリスク管理の一つとして捉えることができます。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで複数の企業で産業医として対応していると、メンタル対策のROIは単純な面談件数では評価しにくいと感じます。例えば、人事から早い段階で相談を受け、本人を面談した結果、受診や一時的な業務調整につながるケースがあります。その社員が実際に休職していたかどうかは分からないため、「いくら損失を防いだ」と正確に計算することはできません。一方で、状態が悪化する前に選択肢を増やせることには実務上の価値があります。数字を無理に作るより、休職・離職・再休職・長時間労働など自社で把握できる指標を継続的に確認する方が、メンタル対策の効果を評価するうえでは現実的だと考えています。
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まとめ

メンタル対策のROIを考える際には、対策費だけでなく、休職、離職、採用・教育、生産性低下、周囲の社員や管理職への負担などを合わせて考える必要があります。ただし、メンタルヘルス対策の効果を一つの金額へ正確に換算することは困難です。自社の課題に合わせて必要な施策へ投資し、休職や再休職、離職、長時間労働など複数の指標を継続的に確認することが、現実的なROI評価につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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