メンタル不調が少ない会社の特徴|不調を予防しやすい職場環境とは

産業医として複数の企業に関わっていると、社員数が同程度でもメンタルヘルス不調による休職や長期欠勤が比較的少ない会社があります。もちろん、休職者が少ないという数字だけで「良い会社」と判断することはできません。休職制度を利用しにくいために表面化していない可能性もありますし、社員の年齢構成や仕事内容によっても状況は異なります。一方で、実際に安定して勤務できている社員が多い職場を見ると、業務量の調整、上司への相談のしやすさ、不調時の早期対応などにいくつか共通する特徴があります。本記事では、メンタル不調が少ない会社にみられやすい特徴を、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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極端な長時間労働が常態化していない

メンタルヘルス対策を考える際、まず確認したいのは基本的な労働環境です。研修や相談窓口を充実させても、恒常的な長時間労働が続いていれば十分な休息を確保できません。
比較的安定している職場では、残業が増えた社員を把握し、業務量の見直しや応援体制につなげる仕組みがあります。単に「残業を減らしてください」と本人へ伝えるのではなく、なぜ残業が増えているのかを確認することが重要です。
一部の社員だけに仕事を集中させない
仕事ができる社員に重要な案件が集まることは、どの会社でも起こり得ます。しかし、それが長期間続けば特定の社員だけが疲弊します。
メンタル不調を予防するには、部署全体の平均残業時間だけではなく、個人ごとの業務量や担当案件の偏りを見る必要があります。特定の社員しか対応できない仕事を減らすことも、組織としてのリスク管理になります。
忙しいときに「忙しい」と言える

業務負荷そのものと同じくらい重要なのが、負荷について相談できる職場であることです。「仕事が多すぎると言うと能力不足と思われる」と社員が感じている環境では、限界になるまで相談が出てこないことがあります。
一方、早い段階で上司へ相談できれば、担当業務の変更や納期調整など比較的小さな対応で済む場合があります。
管理職が部下の変化を把握している
日常的に社員と接している直属上司は、職場での変化に気付きやすい立場です。遅刻が増えた、ミスが目立つようになった、仕事の進みが遅くなったなど、本人が不調を申し出る前に変化が現れることがあります。
管理職が病気を診断する必要はありません。「いつもと違う状態が続いている」と感じたときに声をかけ、人事や産業医へつなげられることが重要です。
管理職自身に余裕がある
部下のメンタルヘルス対策を管理職へ求めても、上司自身が過剰な業務を抱えていれば十分な対応は困難です。
プレイングマネージャーとして個人業務に追われ、部下と話す時間がほとんどない職場では、小さな変化を把握しにくくなります。ラインケアを機能させるには、管理職がマネジメントを行える余裕を確保することも必要です。
役割と責任の範囲が比較的明確である

担当者が決まっていない仕事や、トラブルが起きるたびに誰かが対応する仕事が多い職場では、責任感の強い社員へ負担が集中しやすくなります。
誰が何を担当するのか、どこまで対応すればよいのかがある程度明確になっている職場では、仕事を抱え込みにくくなります。
仕事の優先順位を上司が示している
複数の仕事を同時に依頼しながら、すべてを最優先として扱うと社員は負荷を調整できません。
業務が増えたときに「今週はこちらを優先し、もう一つは来週でよい」と上司が優先順位を示せる職場では、社員が自分だけで判断を抱え込まずに済みます。
目標と人員配置のバランスを確認している
売上や生産性の目標を設定すること自体は通常の企業活動ですが、人員が減少しても同じ業務量や成果を求め続ければ、一人あたりの負荷は増えていきます。
退職や休職によって人員が減った際に、採用だけでなく業務そのものを減らせないか検討する視点も重要です。
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異動や昇進後の社員をフォローしている
メンタル不調は、必ずしも長時間労働だけをきっかけに生じるものではありません。部署異動、転勤、昇進、仕事内容の変更など、大きな環境変化の後に不調となることがあります。
特に管理職へ昇進した社員や未経験業務へ異動した社員について、数か月程度は上司や人事が状況を確認できると、問題を早期に把握しやすくなります。
不調者を早めに産業医面談へつなげている

状態が大きく悪化してから産業医面談を設定すると、その時点では休職以外の選択肢が難しい場合があります。
一方、「最近眠れていないようだ」「遅刻が増えている」「本人から仕事がつらいという相談があった」といった段階で面談につながれば、受診勧奨や業務調整などを検討できる余地があります。
休職すること自体を失敗と考えない
メンタル不調が少ない会社とは、必ずしも休職者がゼロの会社ではありません。症状が強い場合には、一度仕事から離れて治療に専念することが必要なケースもあります。
無理に勤務を続けさせた結果、状態がさらに悪化して長期休職になることもあります。必要なときに適切に休めることも、長期的には重要なメンタルヘルス対策です。
復職を急がせない
人員不足などを理由に復職を急ぐと、十分に回復していない状態で勤務を再開することがあります。その結果、短期間で再休職となれば本人だけでなく職場側の負担も大きくなります。
主治医の診断書だけでなく、生活リズムや通勤、仕事内容などを確認したうえで復職を検討することが重要です。
復職後の仕事を段階的に戻している

復職可能と判断されたからといって、初日から休職前と同じ仕事量へ戻す必要はありません。
復職直後は残業や出張を制限する、担当案件を調整するなど、一定期間負荷を抑え、勤務状況を確認しながら段階的に通常勤務へ戻す方法があります。
復職後にもフォローする仕組みがある
復職時の産業医面談だけで支援を終了すると、その後の変化を把握できません。復職直後は緊張感で勤務できていても、1~2か月後に仕事量が増えた段階で疲労が目立ってくることがあります。
復職後の一定期間に人事や産業医が再度状況を確認する仕組みがあると、負荷を調整しやすくなります。
不調者が出た部署を振り返っている
一人の社員が休職しただけで職場環境に問題があると判断することはできません。しかし、同じ部署から複数の不調者が続いている場合には、個別対応だけで終わらせないことが重要です。
労働時間、人員配置、業務量、異動、管理職とのコミュニケーションなどに共通する要因がないか確認することで、次の不調を予防できる可能性があります。
ストレスチェックを職場改善に利用している

ストレスチェックは実施すること自体が目的ではありません。集団分析などから負担の高い部署がみられた場合には、実際の職場状況と照らし合わせて考えることが重要です。か
結果を人事や産業医が確認し、必要に応じて管理職へのヒアリングや職場環境の見直しにつなげることで、制度を実際の予防活動に活用できます。
人事・上司・産業医の役割が整理されている
メンタルヘルス対応がうまく機能している会社では、すべてを直属上司へ任せるのではなく、それぞれの役割がある程度整理されています。
上司は日々の業務管理、人事は制度運用や関係者の調整、産業医は健康状態を踏まえた就業上の医学的評価を担当します。判断に迷った際の相談先が明確であることも重要です。
特別な施策より日常の職場運営が重要
メンタルヘルス対策というと、研修、相談窓口、福利厚生など新しい制度を導入することに注目しがちです。しかし、実際には適切な業務量、休息、上司とのコミュニケーション、明確な役割分担といった日常の職場運営が土台になります。
制度を増やすだけではなく、社員が普段どのように働いているのかを確認することが予防の出発点になります。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで多くの企業で産業医業務を行ってきましたが、メンタル不調が比較的少ない職場では、必ずしも特別なメンタルヘルス制度が多数用意されているわけではありません。むしろ、残業が増えた社員がいれば上司が理由を確認する、仕事が集中していれば担当を調整する、不調の兆候があれば早めに人事や産業医へ相談するといった基本的な対応が日常的に行われている印象があります。また、社員が不調になった際にも「本人が弱い」「上司が悪い」とすぐに原因を一つに決めるのではなく、本人の状態と職場側の負荷をそれぞれ整理して対応している会社は、復職後の調整もしやすいと感じます。メンタルヘルス対策は特別な制度だけで作るものではなく、普段の労務管理やマネジメントの積み重ねが大きいと考えています。
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まとめ

メンタル不調が少ない会社には、極端な長時間労働を避ける、業務を一部の社員へ集中させない、社員が早めに相談できる、管理職が部下の変化を把握する、不調時に人事や産業医へつなげるといった特徴がみられます。ただし、休職者が少ないという数字だけで職場環境を評価することはできません。必要な社員が適切に休職でき、復職後も無理なく働き続けられているかという視点も重要です。特別な施策だけに頼らず、日常の業務量や人員配置、コミュニケーションを整えることが、継続的なメンタルヘルス不調の予防につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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