復職運用の将来|これから企業の休職・復職支援はどう変わるのか

メンタルヘルス不調による休職者への対応は、多くの企業にとって継続的な課題です。これまでの復職支援では、「主治医から復職可能の診断書が提出される」「産業医面談を行う」「会社が復職を決定する」という流れが中心でした。しかし、働き方の多様化やテレワークの普及、メンタルヘルスへの理解の広がりなどによって、復職運用に求められる内容も変化しています。今後は単に復職できるかどうかを判断するだけではなく、復職後に安定して働き続けられる仕組みをどのように作るかが、より重要になると考えられます。本記事では、今後の復職運用で企業が意識したいポイントを、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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「復職できるか」から「働き続けられるか」へ

従来の復職支援では、復職可否の判断に大きな比重が置かれてきました。しかし、復職した社員が短期間で再休職するのであれば、復職日だけを評価しても十分とはいえません。
今後は、復職後数週間から数か月の勤務状況まで含めて復職支援を考えることが、より重要になるでしょう。
復職後のフォローがより重視される
復職時には慎重に面談を行っていても、その後は直属上司へ任せきりという企業はあります。しかし、復職直後よりも、業務量が増え始めた1~3か月後に負担が表面化するケースもあります。
復職後の一定期間にフォロー面談を設定し、勤怠や業務負荷を確認する仕組みは、今後さらに重要になると考えられます。
画一的な復職支援から個別対応へ
同じ診断名で休職していても、必要な配慮は社員によって異なります。休職期間、症状、仕事内容、通勤時間、職場環境などがそれぞれ違うためです。
「メンタルヘルス不調なら全員1か月残業禁止」といった画一的な運用より、本人の状態と職務内容を踏まえて必要な配慮を設定する方向が実務上は使いやすいでしょう。
テレワークをどう扱うかが課題になる

テレワークが可能な企業では、復職時に「最初は在宅勤務から始めたい」という希望が出ることがあります。一方で、在宅勤務ができることと、通常の就業が可能であることは必ずしも同じではありません。
通勤負担を軽減できるメリットがある一方、生活リズムが整いにくい、職場での業務遂行状況を確認しにくいといった側面もあります。テレワークを単純な負荷軽減策として扱わず、その目的を整理することが重要です。
ハイブリッド勤務を前提とした復職も増える
出社と在宅勤務を組み合わせる企業では、復職時の勤務条件も複雑になります。例えば週2回出社から開始し、その後出社日を増やすといった運用も考えられます。
重要なのは、在宅勤務の日数だけでなく、業務量や勤務時間、出社時の負担を含めて評価することです。
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勤務時間より業務負荷の評価が重要になる

復職支援では、これまで「残業禁止」「短時間勤務」といった時間による制限が中心になりがちでした。しかし、同じ8時間勤務でも仕事内容によって負荷は大きく異なります。
担当案件数、納期、顧客対応、判断責任、突発業務など、実際の仕事の負荷まで確認することが今後さらに重要になるでしょう。
短時間勤務だけに頼らない復職運用へ
短時間勤務は分かりやすい復職支援策ですが、企業の制度によっては実施が難しいこともあります。また、勤務時間を短くしても業務量が変わらなければ、十分な負荷軽減にならない場合があります。
勤務時間だけでなく、仕事内容や責任範囲を調整するという考え方が必要です。
上司の役割はより明確化される
直属上司は復職者の日常的な変化に最も気付きやすい立場ですが、医学的な判断まで求めることは適切ではありません。
今後の復職運用では、上司は勤怠や業務遂行状況を確認し、気になる変化があれば人事や産業医へつなぐという役割を明確にすることが重要です。
人事は関係者をつなぐ役割がより重要になる

本人、上司、主治医、産業医がそれぞれ異なる情報を持つため、復職運用では情報を整理する担当者が必要です。
人事が制度運用の中心となり、必要なタイミングで産業医や上司と連携する仕組みを作ることで、個々の管理職だけに負担が集中することを防ぎやすくなります。
産業医にはより具体的な就業意見が求められる
「復職可能」「就業可能」という結論だけでは、会社が具体的にどのような働き方を設定すればよいか分からない場合があります。
残業、出張、夜勤、業務量など、実際の職場で運用できる形に医学的な意見を落とし込むことが、産業医にはより求められるでしょう。
オンライン産業医面談の活用も進む
オンライン面談を利用できる環境では、復職後のフォローを柔軟に実施しやすくなります。本人が遠隔地で勤務している場合や、複数拠点を持つ企業でも産業医面談を設定しやすいことはメリットです。
一方で、勤務状況については人事や上司からの情報も必要です。オンライン面談だけですべてを判断するのではなく、職場側の情報と組み合わせることが重要です。
データを活用した復職運用も考えられる

勤怠情報や残業時間など、企業がすでに保有している情報を復職後のフォローに活用する方法があります。本人が問題ないと話していても、遅刻や欠勤が徐々に増えている場合には、早期面談のきっかけになります。
ただし、データだけで健康状態を判断することはできません。あくまで変化に気付くための補助的な情報として扱うことが重要です。
AIを利用した健康管理には慎重さも必要
今後、勤怠や働き方のデータを分析し、健康リスクを把握する技術が広がる可能性があります。しかし、AIが算出した結果だけで「再発リスクが高い」「勤務困難」と判断するような運用には慎重さが必要です。
健康状態には個人差があり、仕事の内容や本人の状況を数値だけで把握することは困難です。最終的には本人との面談や職場情報を踏まえた個別判断が必要です。
健康情報の管理はより重要になる
復職運用で扱う情報が増えるほど、健康情報をどこまで共有するかという問題も重要になります。
直属上司に必要なのは、必ずしも病名や詳細な治療内容ではありません。業務上必要な配慮を中心に共有し、健康情報へのアクセスを必要な範囲に限定する考え方は今後も重要です。
再休職率などから制度を振り返る視点

復職した人数だけでは、復職制度がうまく機能しているか判断できません。復職後短期間で再休職するケースが多い場合には、復職時の判断や復職後の負荷設定に改善余地がある可能性があります。
個人を評価するためではなく、制度改善の材料として復職後の経過を振り返ることが有効です。
復職制度は固定されたものではなくなる
働き方が変化すれば、復職制度も見直す必要があります。テレワークやフレックスタイムなどが一般化した企業では、従来の「毎日出社して定時勤務できること」を前提とした復職基準が、自社の働き方と合わなくなる場合もあります。
自社の勤務制度や業務特性に合わせて、復職運用を定期的に見直すことが重要です。
仕組みを複雑にしすぎないことも重要
復職支援を充実させようとして、面談やチェック項目を増やしすぎると、現場で運用できなくなることがあります。
誰が、いつ、何を確認し、問題があれば誰へ相談するのかという基本的な流れを明確にし、そのうえで個別対応できる仕組みにすることが現実的です。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで産業医として多くの休職・復職案件に関わってきましたが、復職運用はすでに「復職できるかを一度判断して終わる」という形では対応しにくくなっていると感じます。実際には、復職時には問題なく見えても、業務量が戻り始める1~2か月後に疲労が強くなるケースや、在宅勤務では安定していても出社日が増えると状態が変化するケースがあります。一方で、復職時点で完璧な勤務条件を決めることも困難です。そのため実務上は、「まずこの条件で勤務してもらい、一定期間後にもう一度評価する」という運用が現実的だと感じています。今後、オンライン面談やデータ活用が進んだとしても、本人の状態、実際の仕事内容、職場での様子を確認しながら調整するという復職支援の基本は大きく変わらないでしょう。技術を利用しながらも、個別性を失わない運用が重要になると考えます。
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まとめ

今後の復職運用では、復職可否を一度判断するだけではなく、復職後に安定して働き続けられるかという視点がさらに重要になります。テレワークやハイブリッド勤務、オンライン産業医面談、勤怠データなどを活用できる場面は増えていくでしょう。一方で、健康状態を一律の基準やデータだけで判断することは困難です。本人、上司、人事、産業医が必要な情報を共有し、一定期間ごとに勤務状況を再評価する仕組みを作ることが、これからの復職運用では重要です。働き方が変化しても、本人の健康状態と実際の仕事を丁寧にすり合わせるという基本を維持することが、安定した就業継続につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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