摂食障害の就業判断

摂食障害のある社員について就業判断を考えるとき、 職場で見落とされやすいのが 体力低下 です。
周囲から見ると、 本人は真面目に出勤している、 会話も成立する、 デスクにも座れている。 そのため、 「働けているように見える」 ことがあります。
しかし実務では、 摂食障害では 見た目以上に身体の予備力が落ちていること があり、 そこを見誤ると、 通常勤務や負荷の高い業務を続けさせてしまい、 急な悪化や事故につながることがあります。
とくに、 低栄養、 脱水、 起立性低血圧、 徐脈、 集中力低下、 易疲労性などは、 本人の意思や責任感ではカバーしきれません。
本記事では、人事・労務・管理職向けに、 摂食障害の就業判断でなぜ体力低下を見落とすと危険なのか、 何を確認し、 どのように就業条件を設計すべきかを整理します。
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結論|摂食障害の就業判断では、“出勤できるか”より“体力・循環動態・持続性が仕事に耐えられるか”を見た方が実務的

摂食障害の就業判断で重要なのは、 単に 「来られるか」 「座っていられるか」 を見ることではありません。
実務で本当に確認したいのは、
- 体力がどこまで落ちているか
- 立位・移動・長時間勤務に耐えられるか
- 低栄養や脱水による安全リスクがないか
- 勤務後に強い反動や悪化が出ていないか
です。
つまり、 摂食障害の就業判断は “気持ちがあるか”ではなく、“身体が就業を支えられるか”で考える 方が安全です。
なぜ摂食障害では体力低下が見落とされやすいのか

1. 本人が無理して動けてしまうことがあるから
摂食障害のある人は、 かなり体力が落ちていても、 責任感や不安から無理に出勤することがあります。
そのため、 周囲は 「来られているなら大丈夫」 と誤解しやすくなります。
2. 症状が“食行動の問題”に矮小化されやすいから
職場では、 摂食障害というと 「食べられていない」 「痩せている」 ことばかりが注目されがちです。
しかし実際には、 重要なのは それによって仕事に必要な身体機能がどう落ちているか です。
3. デスクワークなら問題ないように見えやすいから
座っているだけならできそうに見えても、 実際には
- 午後に急に消耗する
- 立ち上がるとふらつく
- 集中が続かない
- 低血糖や脱水で不安定になる
といったことがあります。
摂食障害の就業判断で見たい主なリスク

1. 易疲労性
少しの活動でも強く疲れる、 終業まで持たない、 帰宅後に寝込む、 という場合は、 体力低下が就業に影響している可能性があります。
2. 立ちくらみ・ふらつき
起立時のふらつき、 めまい、 失神リスクは、 移動、 立ち仕事、 階段使用などで危険につながります。
3. 集中力・判断力の低下
低栄養や疲弊は、 単に身体が弱るだけでなく、
- 集中しにくい
- 判断が遅い
- 作業速度が落ちる
- ミスが増える
といった形でも現れます。
4. 寒さ・体調変動への弱さ
冷え、 気温変化、 長時間の外勤などで、 想像以上に身体負担が強く出ることがあります。
5. 脱水・低血糖・循環不安定
水分摂取や食事が不安定だと、 日中の就業そのものがかなり不安定になります。
就業判断でまず確認したいポイント

1. 所定時間を保てるか
短時間なら動けても、 所定労働時間いっぱいは持たない場合があります。
特に、 午後に大きく崩れるなら、 通常勤務判断は慎重にした方が安全です。
2. 立位・移動負荷に耐えられるか
デスクワーク中心でも、 通勤、 社内移動、 会議室移動、 トイレ移動などはあります。 そこに不安定さがないかを見る必要があります。
3. 勤務後の反動はどうか
その日は出勤できても、 帰宅後に強く寝込む、 翌日動けないなら、 継続就業としては厳しいことがあります。
4. 安全リスク業務があるか
立ち仕事、 外回り、 運転、 接客、 高温環境、 力仕事などでは、 体力低下の影響がより大きくなります。
5. 医療的安定性はどうか
体重だけでなく、 主治医意見、 身体合併症、 検査異常の有無、 治療継続状況なども重要です。
実務で起きやすい誤判断

1. 「普通に会話できるから働けるだろう」
会話ができることと、 所定勤務に耐えられることは別です。
2. 「本人が大丈夫と言っているから大丈夫」
本人の意向は重要ですが、 摂食障害では無理をしやすく、 自分の体力低下を過小評価することもあります。
3. 「痩せているけどデスクワークだから問題ない」
デスクワークでも、 持続性、 集中力、 起立時の不安定さは無視できません。
4. 「気持ちが前向きだから通常勤務でよい」
気持ちの問題と身体の予備力は別です。 前向きさだけでは安全は担保されません。
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体力低下を踏まえた職務設計の考え方

1. 業務をA/B/Cで分ける
A(比較的安全)
- 短時間のデスクワーク
- 負荷の低い定型事務
- 座位中心の作業
B(条件付きで可能)
- 短時間の会議参加
- 移動を伴うが休憩を入れやすい業務
- 時間制限つきの対人業務
C(当面慎重に見る業務)
- 長時間の立ち仕事
- 外回り・外勤
- 運転
- 力仕事
- 休憩を取りにくい接客連続業務
このように分けると、 “働けるかどうか”だけでなく、 “どこまでなら安全か”を整理しやすくなります。
2. 勤務時間を短く区切る
いきなり通常勤務に戻すより、 短時間勤務から始め、 体力の持続性を確認する方が安全です。
3. 休憩・補食・水分の取りやすさを設計する
摂食障害では、 食事や水分摂取のしやすさも就業安定性に関わることがあります。
4. 見直し日を置く
体力や治療状況は変わるため、 就業条件は定期的に見直した方が実務的です。
上司・人事が使いやすい言い方
本人への説明
「出勤できること自体は大事ですが、会社としては、体力や持続性の面で安全に勤務を続けられるかも確認したいと考えています」
社内整理の言い方
「摂食障害では、見た目や出勤状況だけでなく、体力低下や循環不安定さを踏まえて勤務条件を設計する必要があります」
現場への説明
「個別事情の詳細ではなく、当面の勤務時間と業務範囲を調整して運用します」
やってはいけない対応

1. 出勤できていることだけで通常勤務と判断する
持続性や安全性を見落としやすくなります。
2. 体力低下を“気合い”で埋められると考える
身体の予備力低下は根性論では補えません。
3. 本人の自己申告だけで負荷を戻す
無理をしやすいことを前提に慎重に見る方が安全です。
4. 長時間立位・外勤・運転を曖昧に戻す
体力低下の影響が大きく出やすい業務は特に慎重な設計が必要です。
Q &A

Q1. 摂食障害でもデスクワークなら就業可能ですか?
一律には言えません。 座位中心でも、持続性、集中力、起立時のふらつき、勤務後の反動まで見た方が安全です。
Q2. どの点を最も見落としやすいですか?
見た目や会話の成立に比べて、体力の予備力低下と勤務後の反動は見落とされやすいです。
Q3. まず何を確認すればよいですか?
所定時間の維持、立位・移動負荷、疲労の強さ、勤務後の反動、安全リスク業務の有無、医療的安定性を確認するのが有用です。
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まとめ|摂食障害の就業判断は、“働く意欲”ではなく“身体がその仕事に耐えられるか”で考える

摂食障害の就業判断では、 本人の真面目さや出勤状況だけで安全を判断すると危険です。
本当に見るべきなのは、
- 体力の低下
- 循環動態の不安定さ
- 持続性
- 勤務後の反動
- 職務に伴う安全リスク
です。
“働く気持ちがあるか”ではなく、 “身体がその勤務条件を安全に支えられるか”で考える。 その視点が、摂食障害の就業判断では最も実務的です。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
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本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
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