診断書が毎回違う社員

社員から提出される診断書の内容が毎回違うと、現場では強い違和感が出やすくなります。たとえば、ある時は「自宅療養」、次は「軽作業なら可」、さらに次は「就業困難」といったように、内容や表現が揺れるケースです。
このとき会社がやりがちなのが、「診断書が怪しい」「本人が嘘をついているのでは」と早く結論づけることです。しかし実務では、ここで感情的に動くと判断を誤りやすくなります。
重要なのは、診断書の違いそのものを責めるのではなく、就業判断に必要な論点を整理して確認することです。この記事では、診断書が毎回違う社員について、会社が確認すべき論点を実務向けに整理します。
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まず押さえる前提

診断書の内容が毎回違うからといって、直ちに不自然とは限りません。精神疾患やストレス関連の不調では、状態が変動することがありますし、主治医が面談時点の状態や本人申告に基づいて表現を変えることもあります。
また、同じ状態でも、医師によって書き方の粒度や表現が異なることがあります。そのため、会社として見るべきなのは、「違うこと」自体ではなく、その違いが就業判断上どういう意味を持つかです。
会社が確認すべき論点

1. 何がどう違っているのか
まずは違和感を抽象的に扱わず、どこが違うのかを分けて整理します。
- 療養の要否が違うのか
- 就業可否が違うのか
- 就業制限の範囲が違うのか
- 療養期間の見込みが違うのか
- 診断名や症状説明が違うのか
「毎回違う」と一括りにせず、どの項目が変化しているのかを見ないと、確認の焦点がぼやけます。
2. 状態変化として説明可能か
次に、その違いが本人の状態変化として説明できるかを確認します。精神症状は波があることも多く、初回より改善して軽作業可になることもあれば、逆に悪化して就業困難になることもあります。
そのため、診断書の違いを見たら、まずは「状態が変わったのか」という観点で考える方が安全です。
3. 就業判断に必要な情報が足りているか
会社にとって大切なのは、診断名の細かさよりも、今どこまで働けるのかです。
たとえば、次の点が不明確だと就業判断が難しくなります。
- 出勤は可能か
- フルタイム勤務は可能か
- 残業や出張は可能か
- 対人負荷の高い業務は可能か
- どの程度の期間制限が必要か
診断書が毎回違っていても、就業可否と必要配慮が整理されていれば、実務上は対応しやすいことがあります。
4. 本人説明と診断書内容にズレがあるか
会社は、本人がどのように説明しているかも確認する必要があります。
- 本人は「働ける」と言っているのに診断書は就業困難
- 本人は「全く無理」と言っているのに診断書は軽作業可
- 本人説明と毎回の診断書の方向性が噛み合っていない
ここに大きなズレがあると、会社としては追加確認が必要になります。
5. 同じ医療機関・同じ主治医なのか
診断書の違いを見る際には、発行元も重要です。
- 同じ主治医が書いているのか
- 途中で医療機関が変わっているのか
- 紹介先変更など経過上の事情があるのか
医療機関や主治医が変われば、表現や見立ての差が出ることもあります。この点を見ずに不自然と決めるのは早すぎます。
6. 会社の確認不足が原因ではないか
意外と多いのが、会社側が診断書に何を求めるか整理できていないケースです。毎回違って見える背景には、会社が確認したい項目を明示していないことがあります。
たとえば、
- 就業可否
- 必要な配慮
- 就業制限の内容
- 次回見直し時期
といった確認項目が定まっていないと、医師ごとにバラバラな診断書が出やすくなります。
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正しい確認手順

STEP1 診断書を並べて差分を整理する
時系列で並べ、何が変わっているかを明確にします。印象ではなく、差分で見ることが大事です。
STEP2 本人に経過を確認する
いきなり矛盾を追及するのではなく、体調の経過、通院状況、主治医からの説明内容を確認します。
「前回と今回で内容に少し違いがあるので、体調の変化や主治医からの説明を確認したいです。」
STEP3 就業判断に必要な論点を整理する
会社が知りたいのは“真偽”ではなく、就業可否です。必要な論点を絞ります。
STEP4 必要なら追加文書や意見照会を検討する
情報が足りない場合は、主治医意見書や追加の確認書式を用いて、就業上必要な事項を明確にします。
STEP5 必要に応じて産業医意見を使う
産業医には、診断の真偽ではなく、提出文書を踏まえて就業可能性や必要配慮をどう見るかという観点で関与してもらいます。
やってはいけない対応

- 診断書が違う=虚偽と決めつける
- 本人を詰問する
- 主治医を敵視する
- 診断名の正しさを会社が判定しようとする
- 就業判断に必要な論点を整理しないまま処分方向に進む
こうした進め方は、問題の本質からずれやすくなります。
会社として整えたいルール

診断書のばらつきに振り回されないためには、会社側に確認ルールが必要です。
- 提出を求める文書の種類を整理する
- 就業判断で確認したい項目を定型化する
- 人事・上司・産業医の役割を分ける
- 追加確認が必要な場合のフローを決める
この土台があるだけで、「毎回違う」に過剰反応しにくくなります。
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まとめ

診断書が毎回違う社員に対して、会社がまずやるべきことは、怪しむことではありません。何がどう違うのか、状態変化として説明可能か、就業判断に必要な情報が足りているかを整理することです。
重要なのは、診断書の真偽を会社が裁くことではなく、現在の就業可能性を適切に判断できる状態を作ることです。
実務で強いのは、「怪しい」と反応する会社ではなく、論点を分けて確認できる会社です。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
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