メンタル不調と心理的安全性|相談しやすい職場づくりのポイント

メンタルヘルス対策を考えるうえで、「心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えています。心理的安全性とは、単に職場の人間関係が良いことや、社員同士が仲良くすることを意味するものではありません。仕事上の疑問や失敗、困りごとについて、過度に不利益を恐れず発言できる状態を考える概念です。メンタル不調との関係でも重要なのは、不調を完全に防ぐことではなく、社員が困ったときに早い段階で相談できる職場をつくることです。本記事では、心理的安全性とメンタル不調について、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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心理的安全性が高ければ不調がなくなるわけではない

お心理的安全性の高い職場でも、メンタル不調が発生することはあります。メンタル不調には仕事だけでなく、本人の健康状態や家庭環境など複数の要因が関係するためです。
そのため、「心理的安全性を高めれば休職者がゼロになる」と考えるのではなく、不調や仕事上の問題を早めに表面化させやすい職場づくりの一つとして考えることが現実的です。
「相談すると評価が下がる」と思われていないか
社員が体調の変化に気付いていても、「上司に相談すると能力がないと思われる」「昇進に影響するのではないか」と考え、相談をためらうことがあります。
こうした状態では、会社が相談窓口を設置していても実際には利用されません。制度が存在することだけでなく、社員が利用できると感じられることが重要です。
上司の反応がその後の相談行動を左右する

社員が「最近仕事がきつい」と相談した際に、「みんな忙しい」「もう少し頑張って」と返されると、その後は相談しにくくなることがあります。
管理職がすべての問題を解決する必要はありません。まず状況を聞き、必要であれば人事や産業医につなぐという対応でも十分意味があります。
失敗を報告できる職場かを確認する
心理的安全性は健康相談だけの問題ではありません。仕事上のミスや分からないことを早めに報告できるかも重要です。
失敗した社員を強く責める文化があると、小さな問題を隠すようになり、本人が一人で抱え込むことがあります。結果として心理的な負担が大きくなる場合があります。
「何でも言える職場」とは少し違う

心理的安全性が高いことは、好きなことを何でも言ってよいことや、仕事上の責任を問われないことを意味しません。
業務上必要な指導や評価は行いながら、疑問や異論、困りごとを伝えたこと自体によって不当に扱われない環境をつくることが重要です。
会議で発言できない背景を見る
会議で一部の社員しか発言しない場合、単に本人の性格だけが理由とは限りません。過去に意見を否定された経験や、上司へ反対意見を言いにくい雰囲気が影響していることもあります。
特に管理職側から積極的に意見を聞き、発言内容にかかわらず一度受け止める姿勢があると、相談や報告もしやすくなります。
心理的安全性と業務量は別に考える

職場の雰囲気が良くても、慢性的な長時間労働や過大な業務量が続けば社員は疲弊します。
コミュニケーション研修だけでメンタルヘルス対策を完結させず、残業時間、人員配置、仕事量なども合わせて確認する必要があります。
相談先を直属上司だけにしない
直属上司との関係そのものが本人の負担になっている場合、上司への相談を求めても機能しません。
人事、産業医、社内外の相談窓口など、複数の相談経路を設けておくことで、社員が状況に応じて相談先を選択しやすくなります。
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産業医面談を利用しやすい仕組みにする

産業医面談について、「かなり重症になった社員が受けるもの」「面談すると休職になる」と認識されている会社では、早期相談につながりにくくなります。
体調が大きく悪化する前でも相談できることを周知し、必要に応じて受診や業務調整につなげられる仕組みを作ることが重要です。
復職者への接し方にも心理的安全性が表れる
休職から復職した社員が、「また休んだら迷惑をかける」と考えて体調不良を言い出せないことがあります。
復職後も上司や人事、産業医などが定期的に状況を確認し、負担が大きくなった段階で相談できる環境を作ることが再休職の予防にもつながります。
管理職だけに責任を負わせない

心理的安全性を高めるために管理職研修を行うことは有用ですが、管理職自身が大量の仕事を抱えていれば、部下一人ひとりの変化を見る余裕がなくなります。
管理職の人数や担当範囲、業務量など、組織側の条件についても確認する必要があります。
不調者が続く部署では職場環境も振り返る
一人の社員がメンタル不調になっただけで、心理的安全性が低い職場とは判断できません。しかし、特定の部署で不調者や退職者が続いている場合には、相談のしやすさや上司とのコミュニケーション、業務量などを確認する意味があります。
個人への対応と職場全体への対応を分けて考えることが重要です。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで産業医面談を行っていると、「数か月前からつらかったが、上司には言えなかった」という話を聞くことがあります。相談できなかった理由も、上司との関係だけではなく、「周囲も忙しい」「自分だけ仕事を減らしてほしいと言えない」「評価に影響しそう」といったものまでさまざまです。一方で、早い段階で上司や人事から産業医面談につながったケースでは、残業や業務量を一時的に調整しながら勤務を継続できることもあります。心理的安全性を抽象的な職場風土の話だけで終わらせず、社員が実際に困ったときに相談できるかという視点で確認することが重要だと考えています。
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まとめ

心理的安全性は、メンタル不調を完全に防ぐためのものではありません。重要なのは、社員が仕事上の困りごとや体調の変化を早い段階で相談できる環境を整えることです。上司の対応だけに頼らず、人事や産業医など複数の相談先を用意し、同時に業務量や長時間労働にも目を向ける必要があります。制度を作るだけではなく、社員が実際に利用できる職場になっているかを確認することが、企業のメンタルヘルス対策では重要です。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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