メンタル不調と経営者|経営者自身の健康と社員のメンタルヘルス対策

企業のメンタルヘルス対策というと、社員へのストレスチェックや産業医面談、休職・復職支援などが中心になりがちです。一方で、見落とされやすいのが経営者自身のメンタルヘルスです。経営者は売上、資金繰り、人事、採用、取引先対応など複数の責任を抱えながら、社内では弱音を吐きにくい立場でもあります。また、経営者の考え方や働き方は、社員の働き方にも大きく影響します。本記事では、メンタル不調と経営者の関係について、経営者自身の健康管理と組織のメンタルヘルス対策という二つの視点から、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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経営者自身もメンタル不調になる

当然ながら、経営者であってもメンタル不調になることがあります。しかし、一般社員と比較して「休みにくい」「代わりがいない」という問題が生じやすい立場です。あ
体調が悪くても重要な意思決定や取引先との対応を続けなければならず、十分に休息を取れないまま状態が悪化することもあります。
経営者は相談相手が少なくなりやすい
経営者には社員には話しにくい悩みがあります。売上の悪化、資金繰り、経営判断への不安などを社員へそのまま相談することは難しいでしょう。
特に小規模企業では、社内に同じ立場の人がいないため、問題を一人で抱え込みやすくなります。仕事上の人間関係が多いことと、悩みを相談できる相手がいることは別の問題です。
経営者には勤務時間という境界がなくなりやすい

社員であれば退勤によって仕事が一区切りになりますが、経営者の場合は帰宅後も経営について考え続けることがあります。あ
休日でもメールや電話へ対応し、資金繰りや人事問題を考えていれば、心理的には仕事から離れられていません。実際の労働時間だけでは負担を把握しにくい点も特徴です。
睡眠の変化は重要なサインになる
経営上の問題が続くと、「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目覚めて会社のことを考える」といった睡眠の変化がみられることがあります。
一時的な睡眠不足は珍しくありませんが、それが続き、日中の集中力や判断力にも影響している場合には注意が必要です。
判断力の低下が経営に影響することもある
強い疲労や睡眠不足が続いている状態では、集中力や判断力が低下することがあります。経営者は日常的に重要な意思決定を求められるため、自身の健康状態が業務へ与える影響も小さくありません。
健康管理は経営とは別の問題ではなく、安定した経営判断を続けるための基盤の一つと考えることができます。
経営者ほど「まだ大丈夫」と考えやすいことがある

会社を自分で立ち上げた経営者などでは、責任感から「自分が休むわけにはいかない」と考えることがあります。その結果、かなり状態が悪化するまで医療機関へ相談しないケースがあります。
仕事ができていることだけで健康上問題がないとは限りません。睡眠、食欲、集中力、休日の過ごし方なども確認する必要があります。
経営者の働き方は社員にも影響する
経営者自身が毎日遅くまで働き、休日にも頻繁に連絡をしている会社では、社員も「自分だけ帰りにくい」と感じることがあります。
経営者が残業を命じていなくても、トップの働き方が職場の暗黙の基準になることがあります。
深夜や休日の連絡が職場文化を作る
経営者が思いついたことを深夜や休日にメールやチャットで送ることがあります。送信するだけで直ちに問題になるわけではありませんが、社員が「すぐに返信しなければならない」と感じていないかは確認した方がよいでしょう。
緊急性がない連絡については翌営業日に対応できるなど、勤務時間外の連絡に関する考え方を整理しておくことも有用です。
「自分もやってきた」が基準にならないよう注意する

経営者自身が長時間労働によって会社を成長させた経験があると、「若いうちはこれくらい働くものだ」と考えることがあります。
経営者本人が選択した働き方と、雇用されている社員に求める働き方は分けて考える必要があります。社員の健康状態や業務負荷を客観的に確認することが重要です。
メンタル不調を本人の問題だけにしない
社員がメンタル不調になった際に、「本人がストレスに弱かった」と整理してしまうと、職場側の問題を見落とす可能性があります。
一方で、不調が発生したから会社に原因があると単純に判断することもできません。本人の健康状態、人間関係、仕事内容、長時間労働、家庭環境などを分けて確認する必要があります。
不調者が続く部署では組織側も確認する
一人の休職者が出ただけで組織に問題があるとはいえません。しかし、同じ部署から短期間に複数のメンタル不調者が出ている場合には、職場側の状況も確認する意味があります。
人員不足、長時間労働、特定の社員への業務集中、管理職の負担など、共通する要因がないかを見ることが重要です。
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社員が経営者へ直接相談できるとは限らない

経営者が「困ったことがあれば直接相談してほしい」と考えていても、社員側からすると経営者へ健康問題を相談することには心理的なハードルがあります。
直属上司、人事、産業医、外部相談窓口など、経営者以外にも相談できる経路を作っておくことが重要です。
小規模企業ほど相談ルートを意識して作る
小規模企業では、人事担当者がいなかったり、上司がそのまま経営者だったりすることがあります。その場合、社員が相談先を失いやすくなります。
外部の産業医や産業保健サービスなどを活用し、会社とは少し距離のある相談先を設ける方法もあります。
経営者が個別の病状を把握しすぎない

社員の健康を心配するあまり、経営者が病名や服薬内容、治療の詳細まで把握しようとするケースがあります。しかし、経営者がすべての健康情報を知る必要はありません。
会社として重要なのは、現在勤務できる状態なのか、どのような就業配慮が必要なのかという情報です。必要な情報を必要な範囲で共有することが重要です。
産業医は経営者と社員の間に立つことがある
産業医は社員の健康状態を確認するだけではなく、医学的な観点から会社へ就業上の意見を伝えます。
例えば、残業制限が必要な社員について、本人から経営者へ直接「仕事を減らしてほしい」と伝えることが難しい場合でも、産業医から就業上の意見として伝えることで調整しやすくなることがあります。
経営者には具体的な情報を伝える
産業医から経営者へ「社員に配慮してください」とだけ伝えても、何をすればよいのか分からないことがあります。
残業を避ける、一定期間出張を制限する、業務量を調整するなど、必要な就業配慮を具体的に示すことで、経営判断へ反映しやすくなります。
休職を損失だけで考えない

社員が休職すると、残った社員への業務負担や人員配置など会社側にも影響があります。そのため、経営者としては可能な限り勤務を継続してほしいと考えることもあるでしょう。
しかし、勤務継続によって状態がさらに悪化すれば、結果として長期間の離脱につながることもあります。必要な休養を適切な時期に確保することも、長期的な就業を考えるうえでは重要です。
復職を急がせない
人手不足の会社では、休職者に早く戻ってきてほしいという事情があります。しかし、人員上の必要性と医学的な復職可能性は分けて考える必要があります。
主治医の診断書や産業医面談などを踏まえ、実際の仕事内容を考慮して復職を判断することが重要です。
復職後の仕事量まで経営側が理解する
「復職したから元通り」と考え、初日から休職前と同じ仕事を担当させると負担が急激に増える場合があります。
特に小規模企業では、経営者自身が仕事を割り振っていることも多いため、残業制限や業務軽減がある場合には、その意味を理解して仕事量へ反映することが重要です。
メンタルヘルス対策をコストだけで考えない

産業医や相談窓口、管理職研修などには一定の費用がかかります。しかし、不調者が長期休職となった場合には、代替人員の確保や周囲の業務負担など別のコストも生じます。
すべての不調を予防することはできませんが、早期相談や適切な就業調整を行える体制を整えておくことには実務上の意味があります。
経営者がすべて対応する会社から仕組みで対応する会社へ
会社が小さいうちは、社員の相談、採用、労務管理まで経営者自身が対応できることがあります。しかし、社員数が増えると、一人ですべてを把握することは難しくなります。
人事、管理職、産業医などへ役割を分け、誰がどの段階で対応するのかを整理しておくことが、組織が大きくなった後の安定した運用につながります。
経営者自身にも相談先が必要
社員の相談体制を整える一方で、経営者自身にも医療機関や専門家など、必要なときに相談できる先があることは重要です。
経営者だから一人で解決しなければならないわけではありません。睡眠や気分の変化が長く続き、仕事や日常生活へ影響している場合には、早めに専門家へ相談することも選択肢になります。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで産業医として複数の企業に関わってきましたが、メンタルヘルス対応に対する経営者の理解は、その後の実務を大きく左右すると感じています。産業医から残業制限や業務軽減について意見を出しても、「本人に無理をさせないようにしてください」という抽象的な理解だけでは、実際の仕事量が変わらないことがあります。一方、経営者が「どの仕事を外せばよいのか」「いつ再評価すればよいのか」と具体的に確認してくれる会社では、現場での調整も進めやすくなります。また、小規模企業では経営者自身が社員対応を抱え込み、かなり疲弊していることもあります。社員のメンタルヘルス対策を継続するためにも、経営者一人の判断に依存せず、人事、管理職、産業医などへ適切に役割を分けていくことが重要だと考えています。
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まとめ

メンタル不調と経営者を考える際には、社員への対応だけでなく、経営者自身の健康にも目を向ける必要があります。経営者の働き方や考え方は、勤務時間、相談のしやすさ、休職・復職対応などを通じて職場全体へ影響します。一方、メンタルヘルス対応を経営者だけで抱える必要はありません。人事や管理職、産業医などへ役割を分け、健康上の問題と経営上の判断を整理しながら対応することが重要です。経営者自身も含めて、必要なときに専門家へ相談できる仕組みを作ることが、継続的なメンタルヘルス対策につながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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