メンタル不調と人事制度|社員の健康を考えるうえで見直したい制度運用のポイント

社員のメンタルヘルス不調というと、長時間労働や上司との人間関係などに注目しがちですが、人事制度の運用が間接的に社員の負担へ影響していることもあります。評価制度、異動、昇進、休職制度、復職制度などは、社員の働き方を大きく左右する仕組みです。ただし、特定の人事制度があるからメンタル不調が発生すると単純に判断することはできません。同じ制度でも、会社によって実際の運用は大きく異なるためです。本記事では、メンタル不調と人事制度の関係について、産業保健の実務を踏まえて解説します。
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人事制度は社員の働き方に影響する

人事制度は給与や昇進を決めるだけのものではありません。社員が何を目標に働くのか、困ったときにどのような選択肢を取れるのかにも影響します。
例えば、休職制度が整っていても利用することで評価が大きく下がると思われていれば、社員が体調不良を抱えたまま勤務を続ける可能性があります。制度そのものだけでなく、社員がどのように受け止めているかを見ることが重要です。
評価制度が過度なプレッシャーになっていないか
成果や能力を評価すること自体は通常の人事管理です。一方で、評価基準が極端に高い、短期間の数字だけで評価される、評価が下がることへの不安が強いといった環境では、社員が無理をしやすくなることがあります。
特に高い成果を出している社員ほど仕事を抱え込み、周囲が不調に気付きにくいケースもあるため注意が必要です。
評価基準が分かりにくいことも負担になる
明確な成果目標が負担になることがある一方で、何をすれば評価されるのか分からない状態もストレスになり得ます。
上司によって評価基準が大きく異なる、評価理由について十分な説明がないといった状況では、社員が必要以上に上司の反応を気にすることがあります。一定の透明性を持った評価運用が重要です。
昇進後の負担増加に注意する

昇進は本人にとって前向きな出来事であっても、同時に大きな環境変化です。特に一般社員から管理職になった場合には、仕事内容が大きく変わることがあります。
自分の業務に加えて部下の管理、評価、トラブル対応などが増え、昇進後しばらくして不調になるケースもあります。昇進させて終わりではなく、その後の負荷を確認することが重要です。
管理職になっても個人業務が減っていない
プレイングマネージャーとして働くこと自体に問題があるわけではありません。しかし、昇進前の仕事をほぼそのまま担当しながら、管理業務だけが追加されているケースがあります。
役職が変わった際には、増える仕事だけでなく、何を減らすのかという視点も必要です。
異動制度が社員の負担になることもある
配置転換は人材育成や組織運営のために必要ですが、異動は社員にとって大きな環境変化でもあります。
仕事内容だけでなく、上司、同僚、勤務地、通勤時間などが同時に変わる場合があります。特に未経験部署への異動や転勤後には、一定期間フォローすることが望ましいでしょう。
短期間に異動を繰り返していないか

組織再編などによって短期間に複数回の異動が行われると、新しい環境に慣れる前に再び環境が変わることがあります。
個々の異動だけを見ると大きな問題がなくても、過去数年間の異動歴を確認すると負荷の大きさが見えてくる場合があります。
本人の希望と会社の配置判断を整理する
メンタル不調となった社員から「部署を変えてほしい」という希望が出ることがあります。しかし、本人が希望したという理由だけで異動すれば問題が解決するとは限りません。
現在の部署でどのような負荷があるのか、業務調整で対応できるのか、新しい部署ではどのような仕事になるのかを整理したうえで会社が判断することが重要です。
休職制度が利用しにくくなっていないか

休職制度が存在していても、「休職したら戻れない」「キャリアが終わる」と社員が感じている場合には、必要な段階で休職を選択できないことがあります。
症状が強い状態で勤務を続けた結果、状態がさらに悪化して長期休職になるケースもあります。必要な社員が治療に専念できる制度運用も重要です。
休職期間のルールを明確にする
休職可能期間や満了時の取り扱いが社員へ十分に伝わっていないと、休職中に制度面への強い不安を抱えることがあります。
健康状態については主治医や産業医が確認し、人事制度については会社が説明するなど、それぞれの役割を整理しておくことが重要です。
復職制度は診断書を受け取るだけにしない
主治医から「復職可能」という診断書が提出されても、それだけで直ちに元の仕事へ戻れるとは限りません。
生活リズム、通勤、仕事内容、勤務時間などを確認し、必要に応じて産業医面談を行います。医療機関で確認できる状態と、実際の職場で必要となる就業能力には違いがあるためです。
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復職後の就業配慮を制度化する

復職者への対応を直属上司の判断だけに任せると、部署によって対応が大きく異なることがあります。
残業制限、出張や夜勤の取り扱い、業務量の調整、フォロー面談などについて基本的な運用を決めておけば、管理職も対応しやすくなります。ただし、配慮内容については個別性も必要です。
就業配慮を長期間固定しない
一度設定した残業禁止や業務軽減が、その後ほとんど見直されないケースがあります。必要な配慮を継続することは重要ですが、本人の状態が改善すれば段階的に通常勤務へ戻すことも検討します。
配慮を設定するときに、次回の評価時期まで決めておくと運用しやすくなります。
人事評価と就業配慮の関係を整理する

就業配慮を受ける社員が「残業制限を受けたら評価が下がるのではないか」と心配することがあります。この不安が強いと、必要な配慮を希望しないこともあります。
産業医は医学的に必要な就業上の措置について意見を述べますが、人事評価そのものを決める立場ではありません。健康管理と評価制度を混同せず、それぞれの判断主体を明確にしておくことが大切です。
柔軟な働き方にもメリットと注意点がある
フレックスタイムやテレワークなどの制度は、通勤負担や働き方の調整に役立つ場合があります。一方で、すべてのメンタル不調者に在宅勤務が適しているわけではありません。
生活リズムが乱れている場合や、職場との接点が減ることで孤立が強まる場合もあります。制度があるから利用するのではなく、何を目的として利用するのかを整理することが重要です。
制度が多すぎて現場が理解できない場合もある
社員を支援するために制度を増やした結果、管理職も社員も「どの制度を使えばよいのか分からない」という状態になることがあります。
制度の充実だけでなく、困ったときの相談先を分かりやすくし、人事が適切な制度へ案内できることが実際の利用につながります。
制度と現場運用が一致しているか確認する

人事制度上は残業削減を進めていても、現場では長時間働く社員ほど評価されていることがあります。また、有給休暇を推奨していても、実際には休暇を取得しにくい部署があるかもしれません。
規程に何が書かれているかだけではなく、社員が実際にどのように働いているのかを確認することが重要です。
不調者が続く場合には制度運用も振り返る
一人の社員がメンタル不調になったことだけで、人事制度に問題があるとは判断できません。しかし、同じ部署や同じ役職層から不調者が続いている場合には、共通する背景がないか確認する意味があります。
昇進後の不調が多い、特定の評価時期に相談が増える、異動後の休職が続いているといった傾向があれば、制度そのものだけでなく実際の運用を振り返ります。
人事・上司・産業医の役割分担が重要
人事制度に関連するメンタルヘルス対応では、それぞれの役割を分ける必要があります。人事は制度や配置を管理し、上司は日常の業務を調整し、産業医は健康状態を踏まえて就業上の医学的意見を述べます。
産業医に異動や評価まで決めてもらう、反対に上司だけで健康状態を判断するといった運用ではなく、それぞれの専門性を生かして連携することが重要です。
これまでの産業医経験を踏まえて

これまで産業医として企業のメンタルヘルス対応に関わってきましたが、人事制度そのものよりも「制度が現場でどう運用されているか」が重要だと感じることがあります。例えば、同じ残業制限でも、上司が業務量まで減らしている職場と、「残業は禁止だが仕事はこれまで通り」という職場では本人の負担が大きく異なります。また、異動や昇進についても、それ自体が問題というより、新しい役割へ移った後に十分な支援がなく、以前の仕事まで抱え続けていることが不調の背景になっているケースがあります。一方で、本人の不調をすべて制度の問題として扱うことも適切ではありません。実務では本人の健康状態を確認しながら、評価、配置、業務量、勤務制度などの中で会社として調整可能な部分を整理していくことが重要だと考えています。
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まとめ

メンタル不調と人事制度の関係を考える際には、評価制度、昇進、異動、休職、復職、柔軟な働き方などを個別に見るだけでなく、実際に社員がどのように制度を利用しているかを確認することが重要です。制度が整っていても利用しにくかったり、現場の運用と一致していなかったりすれば、十分に機能しません。一方で、メンタル不調の原因を人事制度だけに求めることも適切ではありません。本人への個別支援と制度運用の振り返りを並行して行い、人事、上司、産業医がそれぞれの役割を果たすことが、社員が安定して働き続けられる職場づくりにつながります。
この記事の執筆者
Dr.Y(精神科医・産業医)
国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。
その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、
統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など
幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、
復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、
組織改善支援を行っている。
※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。
企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら
本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。
社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。
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