メンタル不調と成果主義|評価制度が社員の心理的負担につながるとき

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成果主義そのものではなく、目標設定や評価方法、業務量、相談のしやすさなど実際の運用を確認することが重要です。

成果主義を取り入れている企業では、年齢や勤続年数だけではなく、仕事の成果や役割を評価へ反映しやすいという特徴があります。一方、産業医面談では「常に結果を出さなければならない」「数字が下がることが怖い」「評価を落としたくなくて仕事を断れない」といった相談を受けることもあります。ただし、成果主義そのものがメンタルヘルス不調の原因になると単純に考えることはできません。同じ評価制度でも、目標設定や評価方法、上司からの支援によって社員の受け止め方は大きく異なります。本記事では、メンタル不調と成果主義の関係について、産業保健の実務を踏まえて解説します。

成果を評価すること自体が問題なのではない

仕事や職場対応について考え悩むビジネスパーソンのイメージ画像
判断に迷う場面こそ、冷静な視点と専門的な助言が求められます

企業が社員の成果を評価し、給与や昇進へ反映すること自体は通常の人事管理です。成果主義だからメンタル不調が増える、年功的な制度なら不調が減るといった単純な関係ではありません。

重要なのは、どのような成果を求め、その目標が現実的なのか、達成までの過程で社員が必要な支援を受けられるのかという運用です。

常に高い成果を求め続ける運用に注意する

目標を達成すると、次の評価期間ではさらに高い目標が設定されることがあります。成長を促すという点では一定の意味がありますが、それが繰り返されると社員が「どこまでやっても終わらない」と感じる場合があります。

特に人員や勤務時間が変わらないまま成果だけを継続的に引き上げる場合には、実際の業務負荷とのバランスを確認する必要があります。

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数字だけで評価される職場では無理をしやすい

売上、契約件数、処理件数など、数字で評価できる仕事は目標が分かりやすい一方、社員が数値達成を優先して無理をすることがあります。

休憩を取らない、体調が悪くても出勤する、担当案件を抱え込むといった行動が評価につながる職場では、短期的な成果と健康管理が衝突する可能性があります。

成果の基準が曖昧な場合もストレスになる

判断に悩み頭を抱える企業担当者と人事担当者のイメージ
対応で判断に迷い、頭を抱える企業担当者。対応ルールがないとトラブルにつながることもあります。

反対に、評価基準が不明確で「上司の印象で決まる」と社員が感じている場合にも負担が生じます。あ

何を達成すれば評価されるのか分からない状態では、必要以上に働いたり、上司の反応を過度に気にしたりすることがあります。評価制度の透明性は重要なポイントです。

本人がコントロールできない数字を評価しすぎない

成果には本人の努力だけではなく、市場環境、担当顧客、地域、チーム構成などさまざまな要素が影響します。

本人がほとんど調整できない要因まで個人評価へ強く反映されると、努力しても改善できない感覚につながることがあります。目標設定では、本人がどの程度コントロールできる指標なのかも確認する必要があります。

相対評価が強すぎる職場では競争が負担になることもある

社員同士を比較して評価する制度では、自分が成果を出していても、周囲がさらに高い成果を出せば評価が下がることがあります。

適度な競争が仕事への意欲につながる社員もいますが、常に同僚と比較される環境が心理的負担になる社員もいます。特にチームで協力する必要がある仕事では、評価制度と協働のバランスを考えることが重要です。

成果主義が相談を遅らせる場合がある

職場の課題やメンタルヘルスの気づきを象徴する電球のイメージ画像
職場での「気づき」や判断の重要性を象徴するイメージ

評価を落としたくない社員ほど、不調を上司へ相談しないことがあります。「仕事を減らしてもらえば評価が下がる」「産業医面談を受けると昇進に影響するのではないか」と考えるケースです。

その結果、会社が不調を把握した時点ですでに勤務継続が難しくなっていることがあります。健康相談と人事評価の関係について、社員が必要以上に不安を抱かない運用が求められます。

仕事を断れない社員に負担が集中する

成果を上げることへの意識が強い社員では、新しい仕事を依頼されるたびに引き受けてしまうことがあります。上司から見ると意欲的に働いているように見えても、本人の業務量は徐々に増えていきます。

本人から「大丈夫です」と言われている場合でも、担当案件数や残業時間など客観的な情報を確認することが重要です。

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高評価の社員ほど注意が必要なこともある

メンタル不調への対応というと、仕事の成果が低下した社員に注目しがちです。しかし、休職直前まで高い成果を維持している社員もいます。

責任感が強く、無理をしながら成果を維持している場合、周囲が問題に気付きにくいことがあります。評価が高いことだけで健康上の問題がないとは判断できません。

成果低下をすぐに本人の能力の問題と考えない

産業医や人事担当者が就業判断のために書類を確認・記入している様子
就業判断や配置転換では、記録と手順の整理が重要です。

以前まで安定して成果を出していた社員の成績が急に低下した場合には、単純に意欲や能力の問題と決めつけないことも重要です。

睡眠不足や抑うつ状態などによって集中力や判断力が低下し、仕事の能率に影響する場合があります。勤怠や本人の様子にも変化がみられる場合には、必要に応じて人事や産業医へつなげます。

管理職自身も成果評価の対象である

管理職が部門の売上や生産性によって強く評価されている場合、部下の業務負荷を下げにくくなることがあります。

本人の健康を考えれば仕事を減らした方がよいと感じていても、部署目標との間で管理職が板挟みになるケースです。個々の管理職の配慮だけに依存せず、組織として調整できる仕組みが必要です。

短期的な成果だけで評価しない視点も重要

短期間で高い成果を出していても、その働き方を数年間継続できなければ、本人にも会社にも負担となります。

長時間労働を前提として高い成果を出すことが評価され続けると、それが職場の標準になる可能性があります。成果だけでなく、その働き方が持続可能かという視点も重要です。

復職者の成果目標は段階的に考える

産業医が社員の話を丁寧に聞き、面談を行っている様子
早めに相談することで、問題は大きくなりません。

メンタルヘルス不調から復職した社員について、復職直後から通常の成果目標をそのまま求めることには慎重さが必要です。

復職直後は安定して出勤すること自体が重要な時期もあります。一定期間は業務量や責任を調整し、勤務状況を確認しながら通常の目標へ戻していく方法があります。

就業配慮と評価制度の関係を整理する

残業禁止や業務軽減などの就業配慮を行う場合、「配慮を受けている期間の評価をどうするのか」という問題が生じることがあります。

この点が曖昧だと、本人が評価低下を恐れて配慮を希望しない場合があります。医学的な就業配慮は産業医が意見を述べ、人事評価については会社が制度に基づいて判断するなど、役割を整理しておくことが重要です。

目標設定の段階で上司と話せることが重要

一方的に目標を与えるだけでなく、現在の業務量や必要な支援について上司と話せる機会があると、負荷を調整しやすくなります。

「この目標を達成するには何が必要か」「現在の人員で対応できるか」といった確認は、成果を下げるためではなく、現実的に成果を出し続けるための調整です。

成果主義とメンタル不調を単純に結びつけない

デスクに置かれた聴診器とパソコン周辺機器。産業医による健康管理やメンタルヘルス支援、職場の健康づくりをイメージした画像。
産業医による健康管理やメンタルヘルス対策は、働く人が安心して働ける職場づくりにつながります。

成果主義の会社でメンタル不調者が出たからといって、評価制度が原因とは限りません。本人の健康状態、人間関係、仕事内容、家庭環境など複数の要因が関係することがあります。

一方、同じ部署から「目標が高すぎる」「評価を落とすのが怖くて休めない」といった相談が繰り返されている場合には、評価制度の実際の運用を確認する意味があります。

ストレスチェックなどから部署ごとの差を見る

成果主義を全社的に採用していても、部署や管理職によって運用が異なることがあります。

ストレスチェックの集団分析、残業時間、休職者の発生状況などを組み合わせることで、特定部署に負担が偏っていないかを確認する材料になります。数字だけで原因を決めるのではなく、現場の実態と合わせて評価することが大切です。

産業医が評価制度そのものを決めるわけではない

成果目標や人事評価制度を決めることは、産業医の役割ではありません。産業医は社員の健康状態を踏まえ、残業制限や業務負荷の調整など就業上必要な医学的意見を会社へ伝えます。

その意見を実際の業務や評価制度の中でどのように運用するかについては、人事や管理職との連携が必要です。

これまでの産業医経験を踏まえて

青空と緑豊かな木々が広がる自然風景。働く人の健康や職場環境、メンタルヘルスをイメージした画像。
働く人が安心して力を発揮できる職場づくりには、心身の健康と良好な職場環境が大切です。

これまで産業医として面談を行ってきた中でも、「成果主義だから不調になった」と単純に整理できるケースは多くありません。むしろ実際には、目標達成へのプレッシャーに加えて、人員不足、長時間労働、評価への不安、仕事を断りにくい性格など、複数の要因が重なっていることが多い印象です。また、成績の悪い社員だけではなく、休職直前まで高い成果を出している社員にも注意が必要だと感じます。本人が「まだ大丈夫です」と話していても、残業時間が増え続けていたり、睡眠が崩れていたりすることがあります。実務では成果を出すことと健康への配慮を対立させるのではなく、現在の働き方を継続できるのかという視点で業務負荷を確認することが重要です。

まとめ

職場における思いやりや配慮、メンタルヘルス支援を象徴するハートのイメージ画像
従業員への配慮や支援の姿勢が、職場の安心感につながります

成果主義そのものがメンタル不調を引き起こすと一律に考えることはできません。一方で、達成困難な目標、数字だけに偏った評価、過度な相対評価、相談しにくい運用などが重なると、社員が無理をしやすくなる場合があります。特に、高い成果を出している社員でも長時間労働や睡眠不足が続いていないか確認することが重要です。企業としては成果を適切に評価しながら、目標と人員・業務量のバランスを確認し、必要なときに社員が相談できる仕組みを整えることが、持続可能な成果とメンタルヘルスの両立につながります。

この記事の執筆者

Dr.Y(精神科医・産業医)

国立大学医学部を卒業後、都内の基幹病院で初期研修を修了。 その後、首都圏の急性期精神科病院に勤務し、 統合失調症、双極性障害、うつ病、依存症、認知症など 幅広い精神疾患の診療に従事。
現在は複数企業の選任産業医として、 復職支援、メンタルヘルス不調者対応、労務トラブル予防、 組織改善支援を行っている。

※本記事は精神科医・産業医としての専門的知見に基づき執筆しています。 個人が特定されないよう配慮し、プライバシー保護を最優先としています。

企業のメンタルヘルス対応で、判断に迷ったら

本記事は一般的な考え方をまとめたものです。 休職・復職対応、産業医面談、職場配慮の判断は、 企業の状況や従業員の状態によって異なります。

社内だけで判断が難しい場合は、 精神科専門の産業医に相談することで、 リスクを抑えた対応が可能になるケースもあります。

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